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「午空さんはどこに行きたい?」
「ハア……、どこでもいいです……」
「うーん、希望を云ってくれた方が気楽なんだけどな」
こっちは気楽どころじゃありません!
暗い眼差しを向けると、彼はどこからか取り出したタウン情報誌を熱心にめくり始めた。歩きながら付箋を貼っていたページをチェックしている。
一体誰と行くつもりでその雑誌を買ったのだろうか。
それとも、定期購読をするぐらいファンクラブの女の子と遊んでいるのでは……。
何故だかは分からないけれど、そんな想像をしたらチクリと胸が痛んだ。
「あ、この店とかどう? 僕、オープンしてからまだ行ったことないんだよね」
そこに載っていたのは、食べ放題の焼肉屋の特集だった。
私は衝撃を受ける。
ぶれない……。ぶれない人だ……。
この人、単に焼肉を食べる口実が欲しかっただけなのでは……。
よろめいた私に対し、満面の笑みを浮かべた日向君は早速スマホからお店に電話をかけて予約をとり始める。「あ、二名で」などと勝手に話を進めた後に、輝く笑顔でこう言った。
「どうしたの、午空さん。そんなところでうずくまって」
「誠意、誠意を見せなくては……でも日向君の分まで出せるほど、お金を持っていません……っ」
冷や汗が噴き出しながらガタガタ震えだした私を見た日向君は、目を丸くする。その意外なものを目の前にした反応を見せた彼に、泣きそうな声で言い訳をした。
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