私と初デート

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 そのオープン間もない焼肉屋さんは、時間帯もあってさほど混んでいるわけではない。まだ煙草の臭いも油煙臭も染みついていない店内は、閑散としていた。 「ここって食べ放題なの?」  私が訊ねると、日向君は頷く。彼の視線がどこに向いているのかと思ったら、並べられた生肉の方を熱心に見ていた。 「……午空さんは、牛タンもモツの仲間の内だって知ってた?」  椅子に座ってからそんな言葉をかけられて、私は目をパチクリさせる。 「え、そうなの?」 「僕も最近知ったけど、実はそうなんだってさ。モツのことを臭いとかで嫌う人も多いけど、実は大衆は気付かずにすでにそれを食しているのである。愉快なものだね」  くくっと笑いながらおどけた口調でそんなことを紡いだ日向君は、沢山の牛タンを熱々の網に乗せて焼いていく。じゅうじゅう音を立てている肉を眺めながら、私は「ふうん」と相槌を打った。 「日向君って、どうしてそんなにモツが好きなの?」  何も考えずにそう問いかけると、彼が意味深な微笑みを浮かべた。 「これはね、僕の体質みたいなものかな」 「体質?」 「僕、どうしても本能として鉄分が多い食材が好きなんだよね。牛肉ユッケも好きだし、飲食店での提供を基本的に禁じた法規制なんか糞くらえって感じ? たまにスーパーの生肉で自分でも作ったりもするけど」 「食あたりになるよ……」  半目で返事をすると、日向君はうっとりと頬杖をついた。
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