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「大丈夫だよ、僕って結構ゲテモノ食いだから」
「そういう問題じゃないよ。細菌は怖いんだよ!」
そもそもスーパーのお肉は加熱用なのに!
「僕のことを心配してくれるの?」
艶めいた雰囲気で声を掛けられ、私はむぐっと口を塞ぐ。
サラサラの黒髪から覗くよく磨いた黒曜石のような瞳がにわかに輝いた。その色気にくらくら酔いそうになっていると、日向君が気が付いて言う。
「あ、焼けたみたい」
危ない。
うっかり日向君に圧しきられるところだった……っ
あくまでも相手の興味は肉に固定されているので、私との会話は食事のついでだ。彼が望んでいるのは家庭の味のもつ煮を食べてみたいという好奇心だけなのに、どうして勘違いしてしまいそうなことばかり言ってくるのか。
これが男子に夢を見ない私のような人間でなければ、勘違いして調子に乗った挙句に奈落の底へと叩き落されることになるだろう。もしくは都合のいい女としてキープされる可能性もある。
あれだけ女子からの人気のある日向君のことである。もしかしたら、そういうキープ女子は既に何名か確保してあるのかもしれない。
料理担当、午空瞳みたいな。……みたいな。
それを考えたら、なんだか胸の奥がチクチクしてきた。
おかしいな、分かってるはずなのにどうしてこんなに痛むのだろう。
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