その奇妙な店は

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 その奇妙な店は、私??語部玲奈(かたりべれいな)のバイト先だ。母であるオーナーの手伝い、お茶係とも言う。  外観は老紳士を思わせる赤煉瓦積みの喫茶店。古風な外観は珍しいけれど、それだけで奇妙と言うにはありふれている。奇妙というか、おかしな店だとはやっぱり思ってしまう。  オーナーは殺人者だ。自称『二番目の殺人者』。痛い厨二病を拗らせていると笑い飛ばしたい名前。だけど彼女の言葉に嘘はないから、センスのない肩書を否定できない。 「ふぅ」  息を吐いて店を見渡す。  店内は狭く、カウンター席が三席。テーブルは無い。同じ型のコーヒーサイフォンが二つ仲良く並び、豆は近くのコーヒー店で買ってきたのが一種類。カップは百円ショップでお洒落なのを選んできた。本当はもっと色んな種類の豆とか、良い食器とか揃えたいけど、オーナーからの許可は下りず、勝手をするお金もない。今はこの豆でいかに美味しいコーヒーを淹れるかが、私の最重要ミッションだった。  店が狭い理由は店の奥にある。店の入り口からみて左手側に設えられた扉。そこから続く部屋が場所を取っているのだ。母の言葉を借りるなら、その先は殺人現場になる訳だが、そちらに気を使った結果がこの狭さ。普通に喫茶店もすればいいと思うが、母はあまり乗り気ではなかった。 「そろそろ来るかな」  カウンターの裏、客から目に入らない位置に置いたスマートフォンで時間を確認する。今日までの数日間で掴んだ感覚から来客の予感得て、私はカウンターを出た。窓ガラスを鏡替わりに身なりを整える。清涼感のある白いワイシャツを着て、ゆるくウェーブのかかった栗毛のショートヘアを揺らす女が映り込んでいる。私が口角を上げて笑みを作ると、ガラスに映る女も同じ笑みを浮かべた。  足元からざっと体を眺めて、鏡に映らない所もチェックする。紺のデッキシューズと色を合わせたジーンズ。膝下までを隠すロングタイプの黒いソムリエエプロンは手作りで愛着がある。エプロンを撫でて上機嫌に笑むと、カランカラン??とドアベルが私を呼んだ。
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