1人が本棚に入れています
本棚に追加
「おやすみ」
耳元で誰かが囁く。
私は指一本動かすことができず、目を閉じたまま、早く時が過ぎるのを願った。
言っておくが私は一人暮らしだ。
そんな私の耳元で、誰がそんな言葉を囁くと言うのか。
早く…朝になればきっと、こんな恐ろしいことは終わる。
この真っ暗な夜が明けてくれれば。
「もうそろそろ…よろしいですか?」
遠慮がちにかけられるもの静かな声。
僕は名残惜しさを堪えて、握っていた愛する婚約者の手を離した。
「お気の毒です。上の階のガス漏れで、下の部屋の方が亡くなるとは…」
「そうですね…でも、見てください、この穏やかな顔。こうして目の前にいても信じられませんよ。ただ眠っているだけのようだ。だから、さようならじゃなくて、こう言ったんです。『おやすみ』とね…」
「彼女には、きっと聞こえたと思いますよ」
最初のコメントを投稿しよう!