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彼女が握り、指先を絡めた僕の左手。その僕の左手の薬指には、いつもなら光を放つシルバーリングがある。
僕は、一度他の誰かと一生を添い遂げると約束をした〝既婚者〟だ。
33歳である僕が妻と一生を添い遂げると決めたのは、今から10年前。短期大学を卒業し、就職してまだ間もない頃だった。妻とは1年と少しの付き合いだったけれど、子供が出来たことをキッカケに結婚へ踏み切った。
間違いなく、僕は妻を好きだった。好きだから、愛し合い、一生を添い遂げると決めた。その気持ちに嘘なんてなかった。そのはずなのに。
「もう。なに? そんなに見られたら恥ずかしいからやめてください」
どうして僕の心は、目の前にいる彼女と一緒にいるとこんなにも大きく揺らいでしまうのだろうか。
僕は、右手で彼女の髪にゆっくりと触れた。触れて、指先で絡め、反対の左手では彼女の指に自分の指をきつく絡めた。
もう、このまま離れなくなってしまえばいい。なんて、バカなことを考えてしまう程度には僕は彼女に溺れている。
「ふふ、くすぐったい」
僕の右手の先が彼女の耳あたりに触れた時、彼女が首をすくめるようにして笑った。
「あ、悪い」
平静にそう返しつつも、ひどく高鳴っている僕の胸の鼓動に彼女は気づいているのだろうか。
今年30歳になるという彼女。そんな彼女と僕は友達というわけでなければ、知り合いだったというわけでも、同じ会社でも何でもない。彼女と僕が出会ったのは、今から半年前だった。
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