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この時までの僕の中にある〝ナオ〟のイメージ。それは、僕と同じように、目立つわけでも特別地味なわけでも何でもないごく普通の人。僕より少しだけ歳が下。それだけが違う普通の男だと思っていた。
〝ナオ〟という名前だけで、何故か男だと思い込み接してきた僕。今思えば、どうして会うまで気づかなかったのか、とか、〝ナオ〟という名前の女性だっているだろうと思う。当時の自分の思考があまりにも単純で無知で嫌になる。
しかし、ただ自分の趣味やそれに対する感想や評価を語っていた僕たちの会話には性別なんてものは関係がなかったし、聞く必要がなかった。それに、彼女の程よくあっさりとした性格からは画面上、女らしさを感じなかったのだ。
待ち合わせた書店の中で、メールにて送られてきた〝黒のカーディガン〟というヒント。僕は、そのヒントを頼りにナオのことを探した。黒のカーディガンなんて、たくさんいるだろう。そう思ったが、どうしたことか、偶然その書店には黒のカーディガンを着た人は一人しかいなかった。
だけど、僕は声をかけない。なぜなら、黒いカーディガンを来ているのは女性だったから。
声をかけずに黒いカーディガンを着ている男性を探し続けると、そんな僕に呆れたのか、彼女の方から僕へ声をかけてきた。
ナオに声をかけられた僕は、驚きと、何か身体の中に走るような衝撃で声がうまく発せなかったのを今でも覚えている。
黒いロング丈のカーディガンに、スキニーデニム。そして、高くも低くもないヒールのパンプスを履いた華奢で透明感のある綺麗な人。
透きとおるような色素の薄い瞳が印象的で、おろされた髪は、自然にふわふわとウェーブがかかっていて綺麗だった。
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