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僕は、ひょっとしたらその時既に恋に落ちていたのかもしれない。
まさか、僕が良き友人になると思っていた〝ナオ〟が女性だったなんて。それも、結婚をしている僕の心を一瞬で射抜くような女性だったなんて。神様はどうしてこんな悪戯をするんだ。僕はそう何度も思った。
だけど、神様は悪くなんてない。悪いのは間違いなく僕だ。
僕は、彼女に出会ったその時から今まで本当に酷い男だ。
一生を共にしようと決めた妻を裏切り、何度となく下心を抱きながら彼女に会っている。こんな旦那だと知ったら、妻は何と言って悲しむだろうか。
いや、悲しむのは妻だけではない。
僕は、彼女に自分が既婚者であることは伝えていない。だが、勘の鋭い彼女のことだ。間違いなく察しているに違いなかった。
会う時間といえば、決まって夜で。会う場所は、ラブホテル。それも、街はずれか、目立たない所を僕が指定する。
彼女は、間違いなく分かっている。だからこそ、僕と会ったって、少し肌に触れるだけ。それ以上は何も求めない。僕も、そんな彼女に手を出すことはできないだろう。それは、この先もずっとそうだ。
「ねぇ、加賀さん」
「なに?」
「……好き」
僕の胸に顔を埋めて呟く彼女。僕は、彼女の言葉にぎゅっと胸が締め付けられる。
「僕も、好きだよ」
彼女の背中に腕を回す。ベッドの上で密着している状態の僕と彼女。僕の腕の中に包まれている彼女は、もぞもぞと顔を動かして顔を上げた。すると。
「一番に?」
と、呟くように言って僕を見た。
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