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彼女の言葉に、僕はすぐに言葉を出せなかった。
彼女を一番と言ったって、妻がいることと妻が一番だということを伝えたって、必ずどちらかを傷つける。
僕は、卑怯だ。
「なんてね。ちょっと言いたかっただけだよ」
彼女に悲しい表情をさせた上に、そんな彼女になにも言葉をかけることはできなかった。
また、顔を下げて僕の腕に額をつけた彼女。僕は、そんな彼女の髪を優しく撫でた。
「加賀さん」
「なに」
「私、貴方が隣にいてくれるだけでいいから。ただ、こうして隣にいてくれるだけで」
僕のシャツを彼女がぎゅっと掴む。
僕は、なにも答えることはなく、ただただそんな彼女の髪を優しく指先で撫で続けていた。
今のは、僕に家庭があることを察している彼女なりの優しさと、愛と、願い。
優しく、素直な彼女が僕に側にいて欲しいと願った。僕は、そんな彼女の想いを嬉しく思うと同時に、ひどく胸を引き裂かれるかのような感覚を覚えた。
苦しい。苦しくて、痛くて、つらくて、もうどうしようもない。
ああ、どうしてなんだろう。
神様は、どうして彼女に僕を出逢わせた。
神様は、どうして僕に彼女を出逢わせたんだ。
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