白昼夢

7/10
前へ
/10ページ
次へ
彼女の言葉に、僕はすぐに言葉を出せなかった。 彼女を一番と言ったって、妻がいることと妻が一番だということを伝えたって、必ずどちらかを傷つける。 僕は、卑怯だ。 「なんてね。ちょっと言いたかっただけだよ」 彼女に悲しい表情をさせた上に、そんな彼女になにも言葉をかけることはできなかった。 また、顔を下げて僕の腕に額をつけた彼女。僕は、そんな彼女の髪を優しく撫でた。 「加賀さん」 「なに」 「私、貴方が隣にいてくれるだけでいいから。ただ、こうして隣にいてくれるだけで」 僕のシャツを彼女がぎゅっと掴む。 僕は、なにも答えることはなく、ただただそんな彼女の髪を優しく指先で撫で続けていた。 今のは、僕に家庭があることを察している彼女なりの優しさと、愛と、願い。 優しく、素直な彼女が僕に側にいて欲しいと願った。僕は、そんな彼女の想いを嬉しく思うと同時に、ひどく胸を引き裂かれるかのような感覚を覚えた。 苦しい。苦しくて、痛くて、つらくて、もうどうしようもない。 ああ、どうしてなんだろう。 神様は、どうして彼女に僕を出逢わせた。 神様は、どうして僕に彼女を出逢わせたんだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加