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鋭く尖ったナイフのようなもので、勢いよく、激しく、奥までえぐるように突き刺された。そんな錯覚にまで陥るような胸の痛み。
それを知ってもなお、僕が彼女から離れられないのは、その痛み以上に、彼女のすべてに感じる、大きく特別な感情があったからだろう。
彼女の姿を見れば、恋にときめくように胸が踊り、瞳を見れば、吸い込まれるように引き込まれ、彼女の白く透明な肌を見れば、猛烈に彼女を求めたくなる。細く長い彼女の指も、か細い声も。全て、愛しくてたまらない。
そんな、彼女の全てに溺れている僕だから、彼女への気持ちを簡単には消せない。そして、だからこそ僕は、どうしても彼女を手放すことができないでいる。
僕は、手放せない彼女の髪を撫でながら彼女の顔を覗き込んだ。
すぅ、すぅ、と時折聞こえる寝息。まさか、と思うと、彼女は僕の腕の中で瞼を下ろしていた。
「寝ちゃったか」
一人つぶやいた僕の口角は自然と上がる。だけど、その瞬間に彼女の閉じている瞼の隙間から零れ落ちた涙に、僕の胸はまた引き裂かれるように痛んだ。
ずるくて、卑怯で、最低な僕。
そんな僕も、限界を感じた。それは、僕の限界ではなく、僕の腕の中で眠る彼女の限界を。
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