1stステージ  文学青年

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文学青年はリスみたいな目を向けた。 「ぼくとはもう付き合えないって言われました。どうしてかと訊くと、日本から出ていくから、と。携帯もつながらないし、どこにどれくらい行っているのか、何で行くのかも、何も教えてくれないんです」 誰と行く、というのは、さすがのみっちゃんも言わなかったのか。 「いやいや~、何せ急だったから。みっちゃんさあ、私にも実はよく説明して行かなかったんだよね~。もう、急に辞めるからこっちの仕事も増えたしさ、私も迷惑っつうか」 「でも、今日は定時で帰るんですね」 …痛いところを突いてくる。実は、みっちゃんと私は先月の異動で部署が分かれた。 みっちゃんが急に辞めたことによる直接的な被害は、実は被っていないのだ。 「じゃあ、そういうことで」 立ち去ろうとした私の後ろから、文学青年が大声で呼ぶ。 「真理香(まりか)さん!」 …なぜ、なぜ君は下の名前をそんな大きな声で呼ぶ? せめて、呼び止めるなら苗字で呼べよ。 ああ!何というタイミングの悪さ。 同じ部署の安川くんがニヤニヤしながら私を指差した。 もう、ショックが大き過ぎて明日から会社に足が向きそうにない。 密かに憧れている安川くんがカン違いしたら、どうしてくれるのよ! 「だ~か~ら~、私にいくら訊いたって、細川さんの居場所なんかわからないんだから!」 私は『細川さんの居場所』という箇所をとくに強くして、安川くんに聞こえるように文学青年に言う。
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