1stステージ  文学青年

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安川くんの口もとが、オッ、と言うのを確認してから、私はさらに続けた。 「だからね、私は彼女のことはよくわからないの。同僚ってだけ。日本にいないなら、そうなんじゃないの? 仕方ないのよ。彼女の意思で、あなたと別れることを選んだんだろうから」 じゃ、と今度こそ立ち去ろうとする。 「ひどいじゃないですか。いきなりですよ。いきなりメールで別れ話って、ひどくない? ぼくはこの先いったいどうしたらいいんだ」 人の会社の玄関前にしゃがみ込むのか? いや、あの、せめてあっちの植え込みの陰とかにしませんか、しゃがみ込むなら。 ほら、だってあんたは隅っこが好きなんだし。 ああ、正直、このひと、引くわ。 悲劇のヒロインならぬ、悲劇の…男の人の場合、悲劇のヒーローでいいんだっけか。 ヒロインの反対語は、えーっと、えーっと、…やっぱヒーローよね。 ヒーローってガラじゃないわ、このひと。 って、そんなことを考えていたら、安川くんが寄って来た。 「市田(いちだ)さあ、今日暇なら、こいつの話くらい聞いてやったら? 市田のこと頼ってここへ来たみたいなんだし」 「はあ?」 私は素っ頓狂な声を上げる。 どうして? どうして安川くんがそんなことを私に言うの? 動揺している私に向かい、安川くんは決定打を打った。 「俺も暇だったら今夜こいつの話に付き合ってやってもよかったんだけどさ、俺、今日は彼女とデートだから」 爽やかな顔がいま、私に無情なことを言わなかったか?
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