報告は未達成ながら

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「そういうわけには参りません。社内規定により決められておりますから」  三条は微笑する。 「彼女さんのために使ってください。お食事にでもお誘いするといいですよ」 「そうですか……なら」  番藤は茶封筒を受け取り、報告書を持って事務所を辞した。 「実直な青年ですね」  三条はそう評した。今度は公園で雨にぬれぼそった子猫を拾ってくるかもしれない。 「まったくだ。良い行いをすれば必ず良いことがあると信じているような」  先野は肯定するも、だが、と言い添える。 「新しい彼女ができても、また捨てられるかもな。世の中の現実はむごいほど厳しい。まっすぐすぎるのも危なっかしい」 「先野さんがそう思うのもしかたないですよね。京都で置き忘れたお土産、結局戻ってきませんでしたし」
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