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「待ちやがれ、コノヤロー! こんど見つけたら、ただじゃおかねぇからな!」
どう見ても長距離ランナーの体型ではない男の体力がついにつきた。追いつけなかった腹いせに、歩道に止めてあった自転車を蹴っ飛ばし、まだ整わない息に肩を激しく上下させながら回れ右した。スキンヘッドから湯気が出ていた。
一方、難を逃れた先野は、逃げ切った勝利に酔うことなく、まだ走りやめない。マラソンランナーのように規則正しい安定した走りで腕を振っていた。
前方に駅が見えてきた。そこでようやっと歩調をゆるめ、目立たない歩き方で駅舎に入った。なにごともなかったような顔つきで首から下げていたICカードを改札機にかざし、ホームにあがる。
ちょうど電車がやってきた。
ドアが開き、先野は他の乗客とともに電車に乗り込んだ。
もう息はあがっていなかった。
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