依頼者は過去を語る

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 それから、サオリとの奇妙な同棲が始まった。サオリはなにも知らない女だった。というより、なにも語らない女だった。どこから来たのか、これまでどうしていたのか、家族はいるのか、まるで記憶喪失であるかのように、口を閉ざしていた。  番藤も、しかしだからといって詮索はしなかった。若いうちはだれにでも人生に迷うことはあるし、触れられたくない過去のひとつやふたつあってもおかしくはない。マトモな境遇で出会ったわけではないサオリには、たぶんそんな秘密が多いに違いなく、いつか口を開いてくれるかもしれないと思っていた。  半年がすぎようとしていた。  サオリはどこかで働いているようで、お金をときどきもってきた。出所は聞かなかった。  相変わらずサオリは個人的なことはあまり話さなかったが、お互いを深く知らないことで、関係が壊れることなく、だらだらと同棲が続いていた。
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