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この世界には色々な神様が存在すると言われる。
論理的に言えば、存在と表現する言葉が正しいと判断するかは人それぞれだか、料理にも神が存在する。
磐鹿六雁(いわかむつかり)はこの国の料理の神様である。
康介は今朝早くから、この磐鹿六雁命(いわかむつかりのみこと)が祀られた神社に訪れていた。
参拝が終わり、境内の外に出た康介に一人の女が後ろから声を掛けた。
「朝早くから随分ご熱心でいらしゃいますね。」
康介が振り返ると、白髪混じりの長い髪の毛をきちんと後ろで束ねた、割烹着姿の女だった。
初老と呼ぶには少し早い位の年齢の女は、竹箒で落ち葉を集めながら淑やかな物言いで声を掛けてきた。
「えっ…はい、前から一度ここの神社に来てみたくて、ちょうど近くで用事がありまして、ついでと言ったらなんですが…寄らせていただきました。」
「料理人さんですか?」
「そうです、イタリア料理のシェフです。実は独立して店を出すんです。それでつい熱心に…普段はそんなに信心深くはないですけどね、」
康介が照れくさそうに顔に皺を作りながら答えた。
「皆さんそうですよ、新規開店、商売繁盛の御祈念で、最近では料理コンテストの必勝祈願の方も多いんですよ、あとは…伝説の包丁の話とか…」
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