『罠』

4/6
前へ
/6ページ
次へ
「伝説の包丁ですか?」 「あ、ご存知ありませんでしたか…『磐鹿六雁の包丁』の伝説…いゃ…うちの神社とはまったく関係無い話なんですけど、何処かで変な噂が広まって…」 垂れ籠めた雲のせいで、10月初めにしては肌寒い冬を思わせる日だった。 神社の塀の付け根から飛び出したすすきが、時折ひそやかに揺らいでいた。 康介は着ていたトレンチコートのポケットから手を出して、女の方へと歩数縮めた。 「都市伝説とかですか?」 その問いかけに女は一瞬口元を吊り上げ、笑みを浮かべたようにも見えたが、何故か康介の目には映らなかった。 「人づての話なんですが…」 女は境内に向かう参拝客に軽く会釈してからまた話を続ける。 「どうもその包丁が実際に存在する訳ではないようです…手にした料理人本人にしか分からないみたいで…なんと表現したらいいのでしょう…」 「本人しか分からないって…あることは有るんですか、その包丁?』 曖昧な表現に康介はもどかしくも、好奇心がまた一歩女へと近づかせた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加