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「伝説の包丁ですか?」
「あ、ご存知ありませんでしたか…『磐鹿六雁の包丁』の伝説…いゃ…うちの神社とはまったく関係無い話なんですけど、何処かで変な噂が広まって…」
垂れ籠めた雲のせいで、10月初めにしては肌寒い冬を思わせる日だった。
神社の塀の付け根から飛び出したすすきが、時折ひそやかに揺らいでいた。
康介は着ていたトレンチコートのポケットから手を出して、女の方へと歩数縮めた。
「都市伝説とかですか?」
その問いかけに女は一瞬口元を吊り上げ、笑みを浮かべたようにも見えたが、何故か康介の目には映らなかった。
「人づての話なんですが…」
女は境内に向かう参拝客に軽く会釈してからまた話を続ける。
「どうもその包丁が実際に存在する訳ではないようです…手にした料理人本人にしか分からないみたいで…なんと表現したらいいのでしょう…」
「本人しか分からないって…あることは有るんですか、その包丁?』
曖昧な表現に康介はもどかしくも、好奇心がまた一歩女へと近づかせた。
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