『罠』

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しかしそれは好奇心だけではなかった。 女の淑やかな声の裏にある何かが、康介を次第に引き寄せていた。 「本当に有るみたいですよ…『星の包丁』とか『覚悟の包丁』とも呼ばれているらしいです。」 「『星の包丁』、『覚悟の包丁』…ですか?」 「料理人として覚悟を持ってその包丁を手にした時、必ずミシュランの星を獲得し、成功する事が出来るだとか…」 「本当に?そんな伝説が…だとしたらいったい何処に…」 康介の上擦った声が辺りに響いた。 風が吹いていないのに、すすきがゆらゆらと音も無く揺れている。 「探なきゃ…その包丁…」  康介の眼の焦点が定まらなくなっていた。 まるで闇の奥底に目を凝らしているように。 「もうあなたには何処にあるか検討が付いてるはず…世界中の人々がその包丁を求めて探しに来る場所…」 「あそこか…僕のよく知ってる場所…早く行かなきゃ…」 康介はまじろぎもせず、まるで魂の抜かれた人形のように歩き出した。
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