『罠』

6/6
前へ
/6ページ
次へ
ガードレールから腰を上げた康介の目の前に、不意に一人の女子高生が立ちはだかった。 眼の玉だけをキョロキョロ動かす康介を、女子高生は凝視しながらゆっくりと右左とイヤホンを外す。 「知ってるよ探し物…包丁」 「何処ですか?何処にあるんですか!」 即座に立ち上がった康介は、女子高生の両肩を掴み激しく揺さぶる。 女子高生はその手をすぐさま力強く振りほどくと、優しく康介の左手を握って道具街を歩き出した。 夕闇の迫る合羽橋に、いつの間にか小雨がぱらついていた。 路地裏に入った二人は幾つもの角を曲がって、たどり着いその先は暗闇だった。 とっくに方向感覚失っていた康介には、やはりそこはただの暗闇でしかなった。 女子高生に促され、大きなテーブルのような物の上にあお向け寝かされた康介は、暗闇の中で自分に近づいて来る何かの気配を感じていた。 それはペタペタと大きな足音をたてながら四方から群がり、荒ら荒らしい息差しが如何にも生臭かった。 現れたブリリアントグリーンの肉体は屈強で、水掻きのある手で器用に包丁を握ってる。 河童は天高く包丁を翳すと、康介の腹めがけて躊躇なく降り下ろした。 切り裂かれた康介の腹に手を捻りこみ、我先にと夢中になって内臓を貪りつく河童の集塊。 「やっぱり夢と希望に満ち溢れた人間の内臓は極上の美味だ…」 おわり
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加