膝の上で

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夕暮れ時にここにいると落ち着く。 お気に入りの、遊具のない公園の一角。 遊具がないから幼児や児童くらいの子どもたちはいない。 舗装されていない、遊歩道はサイクリングを楽しむ人や健康志向、ペットの散歩などの人がときどき通るくらい。 私はこのベンチが指定席であるかのように、いつも同じ場所へ、同じような時刻に腰を下ろす。 穏やかな日常。 …のはずだった。 私の、この役に立たない能力がなければよかったのに。 視えないけど聴こえる。 聴こえるけど何もできない。 この力があるせいで、私は幾度となく危険な目に遭い、そして助かってきた。 膝の上で、目を伏せている、一匹の犬。 視えるし聴こえるこの子は、その力のせいなのかは判別できないけど同じ犬種の子よりかなり小さい。 両手に収まるほどの大きさで、もう10年以上一緒にいる。 出会いは偶然だったけど、一緒に過ごしてきた時間はまるで生まれたときから共に歩んできたかのようだ。 「そう思っているのは私だけじゃないよね…?」 背中を撫でる。 柔らかい毛並み。 「君の心がそのまま滲み出てるよう…ね?燿(よう)」 私を守ってくれてありがとう。 ずっと一緒にいてくれてありがとう。 「もう、おやすみ…」 呟くと、顔をこちらに向けた燿。 瞳が濡れてキラキラしていた。 「うん、お別れだね」 休むことなく、私の手は燿の背中をゆっくりとなで続けた。 温かな毛並みを、温もりを、その眼差しを心に焼き付けておくから。 ずっとずっと、君のこと忘れないよ。 「だから、安心して」 背中を丸めて、燿を抱え込んだ。 そっと抱きしめる。 か細く、喉を鳴らした燿の声。 『おやすみ…』 そう言ってる気がした----- fin
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