海の上の月

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「なぁ、オマエ何してんの?」 「何もしてない」 「ふーん」 「アンタこそ……何してんの?」 「何も」 靴を拾って暗い砂浜を歩いた。 さくさくと砂が指の間に入ってきて、小さな音を立てる。 さくさく、サクサク 音が重なって振り返ると、そいつは私の足跡の上を歩いていた。 「何してんの?」 「何も……あ、ああ。オマエの足跡の上を歩いてる」 「……」 「面白くね? ここには人間ふたりいるのに、足跡は一人分なんだぜ?」 そう言いながら歩いてきた砂浜を振り返る。 なるほど、足跡が重なってひとつしかない。 「くだらない」 コイツってこんなキャラだっけ? そう思いながら睨み付けるように見ていると足裏を満ちてきた海水が濡らす。 「寒くねぇ?」 「……」 「こんな夜に裸足で海入ろうとしてるヤツ見つけたら、フツー通報するぞ」 「……」 バスケ部の奴だ。 名前、なんだっけ? 確か……佐藤とか鈴木とかそういうよくある奴だった気がする。 「2組の岡田だろ?」 「……」 「岡田ほのか」 なんでコイツ、私の名前知ってるんだろう? そう思いながら背を向けてあるいた。 サクサク、ザクザクと足音が続く。 あ、そうだ。 確か皆に、オースケって呼ばれてた。 ……なんとかオースケ。3組だった気がする。 「夜の海って真っ黒だなー。ちょっと怖えーな」 私が無視してるのもお構い無しで、ついてきた。 「……ついてこないでよ」 「なんで?」 「なんでって」 「わかった! じゃあな! って帰れるヤツっているのかな?」 うーんと首をひねって考える仕草が動物園で見たツキノワグマみたいだと思った。 「……デカ」 「ん? ああ、デカいんだよ」 ほにゃら。と、笑った。 「……」 コイツってこんな顔して笑うんだ。 一瞬、そのやわらかな笑顔に足を止めた。
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