海の上の月

4/10
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「……オースケ」 「あ、俺の事知ってる? 3組の高橋。高橋桜介、さくら、に魚介類の介って書いてオースケ」 私は思わず笑った。 「魚介類って」 「あ、笑った! 」 ハッとして、また背を向けて歩いた。 「俺、部活帰りで家に帰るところ」 「あ、そ」 「なあ、上あがろうぜ?」 「勝手にあがれば?」 佐藤とか鈴木とかじゃなかった。ニアピンだったわ、と思ってから海を見た。 「ニアピンでもないか」 「え? 何か言った?」 「……別に」 ザザザザっと波が寄せて引く。 月はさっきよりも遠くへ行ってしまったようだった。 指の間に入った砂が、ゾワゾワと消えては湧いてくる。私は立ち尽くして海に浮かんだ月を眺めた。 「……」 くるぶしまでズブズブと砂に埋まり現れる。それを繰り返しているうちに足の感覚がバカになってきた。 憑りつかれたように、足を一歩踏み出す。 底なし沼のような砂が足首まで捕まえてくる。 「! おい!」 腕をぎゅっと掴まれて後ろに引っ張られる。 「!」 ハッとしてふり返ると、怖い顔をして魚介の介のオースケが私を見下ろしていた。 「……」 「何やってんだ! 危ねえだろ!」 「……」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!