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「……オースケ」
「あ、俺の事知ってる? 3組の高橋。高橋桜介、さくら、に魚介類の介って書いてオースケ」
私は思わず笑った。
「魚介類って」
「あ、笑った! 」
ハッとして、また背を向けて歩いた。
「俺、部活帰りで家に帰るところ」
「あ、そ」
「なあ、上あがろうぜ?」
「勝手にあがれば?」
佐藤とか鈴木とかじゃなかった。ニアピンだったわ、と思ってから海を見た。
「ニアピンでもないか」
「え? 何か言った?」
「……別に」
ザザザザっと波が寄せて引く。
月はさっきよりも遠くへ行ってしまったようだった。
指の間に入った砂が、ゾワゾワと消えては湧いてくる。私は立ち尽くして海に浮かんだ月を眺めた。
「……」
くるぶしまでズブズブと砂に埋まり現れる。それを繰り返しているうちに足の感覚がバカになってきた。
憑りつかれたように、足を一歩踏み出す。
底なし沼のような砂が足首まで捕まえてくる。
「! おい!」
腕をぎゅっと掴まれて後ろに引っ張られる。
「!」
ハッとしてふり返ると、怖い顔をして魚介の介のオースケが私を見下ろしていた。
「……」
「何やってんだ! 危ねえだろ!」
「……」
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