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私は尻餅をつくように乾いた砂の上に座るとオースケを見上げた。
「……」
オースケは真剣な顔をして私を見下ろす。
「怒ってるの?」
「当たり前だろ! オマエわかってんの?」
私は海に視線を戻すと小さな声で言った。
波の音に飲み込まれてしまうほど、小さな声だ。
「……月が」
「え?」
「月が綺麗で……捕まえたかったの」
オースケは私を黙ってみていた。
頭のおかしい女だと思ったに違いない、そう思われても仕方ないと思った。
「……あれは、オマエのもんじゃねえし、俺のものでもねえ、だからってほかの誰かの物でもねえ……捕まえられねえよ」
強ばっていた表情が、ふっと崩れる。
大きな身体を曲げて私の腕を引き上げて立たせた。
「もう少しで、ここも海になる」
堤防のコンクリートブロックに上がってくると、夜と海の境目がわからなくなった。
オースケは私の横に座るとスポーツバッグからタオルを出して足を拭き始めた。
「!」
「動くなよ」
砂を払うように両足を拭き終わると笑う。
「オマエ、バカだろ」
「!」
「夏は終わったんだぞ。早く靴下履けよ」
私は背負っていたリュックから靴下を出すと黙って履いた。
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