10人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「何? 男にフラれたの」
「フラれてない」
「ふうん。じゃあ、何? いじめとか? ってかコーコーセーになってもいじめとかやるようなヤツいるの?」
私は首を振った。
「……いじめじゃないし。フラれるも何も、相手……結婚してたし。そんなの一年も前の話だし」
「そんで?」
「未練あるわけでもないけど、さっき見かけたらなんか幸せそうで」
「思い出したってヤツか」
「……そうなるのかな」
「そんで、死んじゃおうかと思ったの?」
「死のうとまでは思ってなかったけど、海、見てたら……月に触れるんじゃないかって思ってきたのよ」
オースケは投げ出していた長い足を、ヨイショと小さくいいながら胡座を組んだ。
「バカだな」
「そうだね」
波の音と行き交う車の音、誰かの笑い声、どこかの店のBGMが重なる。
「そういうの、フラれたって言うんだよ」
オースケはニッと笑った。
「……」
「フラれてねえって言ってたけど、フラれたの。認めろ」
「デリカシーないわね」
「……デリカシーって、じゃあ。そうだな! フラれてねえよ! 大丈夫だ! とか言えばいいのかよ」
確かに、そんなこと言われても嬉しくもなんともない。私が答えに困っているとオースケは言った。
「オマエからしたら、名前もよく知らねえような俺に、急にそんなこと言われたってムカつくの解るけどよ。でも綺麗事言われるよりいーだろ?」
「……」
「オマエの事、知らねーもん。だから、慰めたって『オマエに何が解るんだよ』って思うだけだべ?」
学校の名前の入ったウォームアップジャケットが風でシャカシャカと音を立てる。指にはテーピングがされていて中指に貼られたバンソコウに血が滲んでいた。
「これ? 練習してる時にゴールの所になんかひっかけたのかな? 爪半分剥がれてさ。痛えの」
私の視線に気がついて、そう言いながら笑った。
街灯の灯りに浮かんだ影は、私が収まってしまいそうなほど大きな身体を身体で、並んでいるとまるで大人と子供のようだった。
最初のコメントを投稿しよう!