海の上の月

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「アンタの言う通りかもね」 「ん?」 「……変になぐさめられても腹立つだけかも」 「だろ? だからムダになぐさめねえよ」 エヘラ。っと笑ったオースケの顔を見ていたら、なんだかセンチメンタルに浸っているのがバカバカしくなって堤防を降りた。 「帰るのか?」 「……そうだけど、何よ」 「家、どこだよ」 「え?」 「家、どこだって聞いてんの」 「三田町」 「……俺んち、黒須町なんだ。近いから送ってやるよ」 私は驚いてオースケの顔を見上げた。 並んで立つと、さすがバスケ部だ。ものすごく背が高い事に改めて気が付く。 「……いいよ!」 「よくないね。帰りに、どっかで水溜りにでも入って死んじまったら俺責任感じちゃうもん」 「あはは! なにそれ」 オースケはフニャリと笑って私を見下ろした。 そして、歩き出した私の半歩ほど後ろを歩いた。 「ひゃ。くしょん!」 「……風邪ひいたんじゃねえの?」 「大丈夫よ、意外と丈夫だから」 「ふうん……あ。待って、かあちゃんから牛乳買って来いってメール来てたんだ」 「ええ?!」 「忘れっとうるせーから、ちょい待ち」 オースケは走って通りのコンビニに入って行った。 「何なのよ、アイツ」 クラスも違うし、何か委員が一緒になった事もない。 バスケ部でそこそこにモテるからなんとなく知ってるぐらいの男の子。 球技大会の時に、なんかの用事で喋ったような気もするけど忘れた。 だって、興味なかったんだから覚えてるはずもない。 私はそう思いながらも、オースケのフニャリとした笑顔がもう一度見たいと思っていた。 「悪ぃ!」 カサカサとコンビニのビニール袋を揺らして駆けてきたオースケに少し意地悪な口調で言った。 「家まで送るっていったんだから、放置しないでよ」 「あはは! すぐ戻って来ただろ? ……ほら」 「わっ!」 「おおナイスキャッチ」 オースケが突然投げて寄越した物を反射的にキャッチすると手の中がジンワリ温かくなった。 「あー寒ぃ」 ミルクココア。と書かれた缶を見て顔を向ける。 「知ってる? これ、すげーウマイんだよ」 手の中の温かさがジンジンと優しくて、チリチリと胸の奥を焦がすように痛かった。 「……ど、うして」 私の言葉にオースケはココアを飲みながら、またフニャリと笑った。
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