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「――亜優」
俺はどうしたらいいのか分からず、遠のいていく後ろ姿と亜優の横顔を何度も見比べた。
下ろした髪に隠れて見えないけれど、きっとその向こうで亜優は必死で泣くのを堪えている。
「ホントに、いいのかよ。あいつ、行っちゃうぞ」
「……」
「亜優」
――近くに来た時は、寄ってね。
これは、うちの母さんがよく使う言葉だ。
いわゆる大人の社交辞令ってやつで、……真に受けて本当にうちに寄った人なんて、俺の知る限りではひとりもいなかったはずだ。
村上さんが冷たい人ってわけじゃなく、たぶん『世の中はそういうもの』なんだ。
大人はみんなそれぞれ忙しくて、自分の世界で手いっぱいで、だから……。
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