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「――ここで待ってろよ」
亜優の返事を待たず、俺は駆け出した。
この手に抱きしめてしまったら別れが辛くなる。
その亜優の気持ちは分かる。 俺だって同じだ。
でも、最後にちゃんとさよならしなきゃ、――あの時抱きしめればよかったって、この先ずっと後悔を抱えていなきゃいけなくなる。
「――あのっ、すみません」
走った勢いに任せて思わず叫ぶと、村上さんが驚いた顔で振り返った。
追いついたところで立ち止り、息を整える。
「急いでるのに、すみません。でも……」
何だかやけに喉元が熱くて、胸が痛くて、今にも泣いてしまいそうだった。
「やっぱり、抱っこさせてもらってもいいですか。――最後に、一度だけ」
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