夢など見ない

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「おはよう」 あなたの声で私は目覚める。 それは私だけの特権だったはずなのに。 「おはよう」 私が返す前に、彼女が呟く。 あなたと同じベッドの中で。 「今、何時?」 寝ぼけた彼女の問いかけに、あなたはチラッと私に目を走らせた。 「6時。君はまだ寝てていいよ」 その言葉に嬉しくなる。 やっぱり、さっきのあなたの”おはよう”は私にかけた言葉だったんだと知って。 彼女をベッドに残して、あなたは私を連れて洗濯機へと向かう。 「眠い」 だるそうに、あなたは呟いた。 そうね。切れ切れにしか寝ていないものね。 あなたがポンポンと洗濯機に放り込む洗濯物の中に、彼女の下着を見つけて嫌な気持ちになる。 なんで? なんで彼女と一緒に暮らし始めたの? 洗濯機をスタートさせると、あなたはキッチンに行く。 フライパンの上で溶き卵が固形化していくのを見ていた。 ほらね。洗濯も朝食作りもあなたがやるんじゃない。 何もしない彼女は何も出来ない私と一緒。 だったら、彼女を私たちの生活に割り込ませる必要はなかったでしょ? 「起きて。朝飯、出来たよ」 あなたはそう言って彼女の頬にキスをした。 私には決して与えてくれない愛の行為。 「ちょっと焦げ臭くない?」 「ごめん」 「まったく。どうせまたスクランブルエッグでしょ? どうやったら焦がせるのか不思議」 「ごめん」 嫌な女! 口を開けば文句ばかりで。 あなたと2人きりの頃の生活が懐かしい。 穏やかで愛に満ちていたのに。 「じゃあ行ってくるけど、何かあったら電話して」 心配性のあなたは優しく彼女に声をかけた。 食器の後片付けもあなたに任せたままベッドに戻った彼女は、面倒くさそうに手を振るだけ。 私はやっとあなたを独り占めできると思って、ウキウキしてくる。 あなたは彼女を置き去りにするけど、私のことは会社にだって連れて行ってくれるから。
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