第二十一章 Dr.八雲 

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「羽黒勝也さんのご親族とお聞きしましたが」 神妙な顔つきで語り掛ける指揮官。 「勝也の母じゃ。勝也はどこに......」 母の身体は、可哀想な程にブルブル震えている。恐らく耳を塞ぎたくなるような心境なのだろう。 「お母様でらっしゃいますか......実は非常に申し上げにくいのですが......息子さんは焼死されました。御悔やみ申し上げます」  指揮官は帽子を取り、深々と頭を下げる。 「な、なんと......う、嘘じゃ、勝也が死ぬ訳無い! 大体......勝也が居なくなったら、あたしはどうすればいいんじゃ!」 正直、予想はしていた...... しかしそれが正真正銘、事実である事を聞かされると、正に最高裁判事から今死刑宣告を受けたのと同じような衝撃だった。 母の鬼気迫る表情に、思わず後退りする指揮官。 しかし彼には、彼に与えられた任務を遂行しなければならない。 反らしていた視線をしっかりと母に向け、再び重い口を開いた。 「とてもお辛いと思いますが、職務上どうしても必要な事が有ります。ご遺体の確認をお願い致します。 目撃者の証言及びご遺体の体躯から、勝也さんにほぼ間違い無いとは思いますが...... 遺体の損傷は極めて激しい状態です。隈無くご覧頂き、違わぬ判断をお願いします」 そう語る指揮官の視線は、足元の担架に向けられていた。きっとこの塊が勝也だと言いたいのだろう。
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