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どこへ行った?
『金色の間』を飛び出した所で足に急ブレーキを掛けた女は、騒然とした空気の中で即座に四方を見渡した。
メインホールであるその会場が、豪華絢爛であれば、そこを出たピロティもまた煌びやかである事この上もない。
高すぎる天井から吊り下げられたシャンデリアは、まるでダイヤを散りばめたかのような輝きを放ち、床に広がる艶やかな絨毯は、まるで中世のヨーロッパを彷彿させる。
そんな神々しくもある一流ホテルの空間を極限まで手を振り上げ、ドラッグレースのごとく一直線に駆け抜けていく一人の青年。
その後ろ姿は瞬きする度に小さくなっていき、やがて非常階段の扉の向こうへと吸い込まれていった。
その速さは、正に陸上選手並み。自分の足で追い掛けたところで、到底追い付けるものではない。
たまたま通り掛かった初老のゲストは、弾丸とも言えるドラッグカーに引かれそうになるも、直前に気付き間一髪難を逃れた。その拍子にバランスを崩し床に倒れ込む。
階段か......
女は過ぎ去った青年の残像を頭に浮かべながら、思考をフル活動させた。
上か? それとも下か?
確率でいったら、どちらも二分の一。
しかしその場の環境、その時の精神状態などの側面を正確にインプットしていけば、確率は必ずどちらかに偏りを生じる。
女の頭内コンピューターは、目まぐるしく活動し、正確な数値を瞬く間に弾き出した。
良し! 上......絶対に上!
頭脳は、行動の方針を『上』に確定させると、直ぐ様自らの足に、エレベーターホールへ向かうよう指示を送る。
タッ、タッ、タッ......
タッ、タッ、タッ......
女は丈の深い絨毯に、ヒールのエッジを効かせながら瞬く間に移動していく。
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