第十二章 アマゾネス

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「そんな事私に聞かれても解りません。だから直接神谷局長に聞いたらどうですか?」 「ちきしょう!」 ガシャンッ! 珠はテーブルの上に置かれていた物を、怒りに任せ、肘で投げ飛ばした。 ロウソクの火は揺れ、鳩達が俄に騒ぎ出す。 「私は局長からの依頼を請ける際、その場には立ち会ってはいません。 部下からの話では『これ以上大事な部下達の命を失う訳にはいかない』局長はそう言われてたそうです。 大事な部下......それは唯一生き残っているあなたの事を指しているんだと思いますよ。違いますか珠さん。 あなたじゃ物足りないから私を寄越したのか、あなたを重要と考えているから私を寄越したのか、どうとるかは、あなたの自由です」 動揺する珠を尻目に、エマは淡々と言葉を並べた。 その全ての発言は、珠の性格を全て読みきった上でのものであり、血気盛んな有望の士を潰す事無く、叱咤し、また更に励ました。 ここでの二人の会話は、正に珠とエマとの格の違いを見せ付けられたような瞬間だった。 とは言え...... 珠も決して勝ち気なだけの猪武者では無かった。   正直、自分はこの柊 恵摩と言う人物に、これまで積み上げてきた手柄を奪い取られるんじゃないかと、そればかりを心配していたのかも知れない。 そんな自分に対し、この人は心の小さい私を諭し、更には叱咤激励、力付けてさえくれている。 ダメだ...... この人には勝てない...... 珠は、エマの存在を邪魔と考えていた思考を、瞬時に180度転回させ、事を成す為のブラスアルファへと、直ぐ様思考を変換させていった。 そしてはにかんだ笑みを浮かべながら...... 「ちょっとエマさんを試しただけだよ」 さらりと言ってのけた。 「そうだと思ったわ」 二人は顔を見合わせた途端、なぜか急に笑いが込み上げてくる。 「「ハッ、ハッ、ハッ......」」 大木に囲まれた小さな洞窟内で、止まる事の無い笑い声が響き渡っていった。 秋葉秀樹すら怖れる『アマゾネス』 VS たった二人の尼。 この戦いの火蓋が今正に開かれようとしていた。
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