第十三章 白昼の悪夢

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AM11時。 トントントン...... 昼前の『BAR SHARK』に鳴り響く臨時マスターの包丁音...... 最近ではもっぱらこの時間の定番と化している。 それにしてもこのマスター......少しシブ過ぎはしないか? ポマードでセメントの如く固められた定番のオールバックヘアーは、エアコンから吹き荒れる強レベルの冷風に晒されても、ぴくりとも靡く事は無い。 何とも言えぬ怪しいフェロモンを、日夜周囲に撒き散らしていた。 長年に渡り経験してきた濃厚な色恋情事の結晶がフェロモンに変化し、毛穴から間欠泉の如く吹き出しているのかも知れない。 そんなマスターが今日も白い歯を見せながら、爽やかな笑顔で皆に声を掛ける。 「さぁ、そろそろ皆さん事務所に下がって下さい。営業妨害ですよ」 ポール・ボイド 青島麗子(あおしまれいこ) 東篠未来(とうじょうみらい) それを合図に3匹の穴熊達は、マスターに追い立てられるかのように、客席のソファーからもっそりと起き上がる。 「マスター、いつカラこんな時間に仕込みハジメルようになったんデスカ? 眠いナもう......フア~ア......」 ポールは緊張感の微塵も感じられない大アクビを連打させながら不満をぶちまけた。 「この店は今経営が厳しいんです。なんせ3人も居候を抱えてるんですから。 別に好きでランチを始めた訳じゃ無いんです。文句があるなら、エマさんに言って下さい。何なら私から言っておきましょうか?」 「ジョ、ジョウダンです! やだなぁ......マスター本気にしないでクタザイヨ......こわい、こわい」 俄に慌てるポール。見ていて男らしく無い。 彼らがここに潜伏を始めてからと言うもの、かれこれ10日間。特に何も変わった事は起きていない。 その間、悲しい事になんと一度も太陽を見ていなかった。正に穴熊そのものだった。
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