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もしあの時の敗戦が無ければ、エマは先手を打ちに出て、後天的に見出だされる勝機に賭けていたかも知れない。
しかし、今エマの防衛本能はそれを許さなかった。
大門剛助......
『攻撃こそ最大の防御なり』
それが必ずしもそうはならない事を、エマに身を持って教えた張本人に他ならない。
この龍貴と言う人物......明らかにただの尼では無い。
自らの武力により、何度も死地を乗り越えて来た者である事は明らかだった。
構え、間合い、呼吸、視線......何一つとっても一流。
ダブる......どうしてもダブる。
何なんだ?
あの時と全く同じじゃないか......
姿、形はは違えども、今目の前に立つ龍貴と、脳裏に浮かぶ大門の姿が完全に重なり合って見えるのは、目の錯覚なのか、それとも敗戦を喫して出来たトラウマが、脳に魔法を掛けているのかそれは解らない。
これはこっちから仕掛けたら必ずやられる......それだけは間違い無かった。
ならば一か八か誘い込んでみるか......
あの時、自分が誘い込まれたように!
すると、微風に飛ばされた枯れ葉が、ヒラヒラとエマの顔の横に落ちて来た。
一瞬エマの視線が枯れ葉に動く。
その瞬間、龍貴の目から眩い光が発せられた。
そして......
「てやぁー!」
瞬きする程の間に、龍貴の鋭い突きがエマのボディに飛び込んで行く。
貰った!
それは龍貴の心の中で、一つの勝算が見えた瞬間だった。
しかし......
バサッ!
なんだと?!
なんと繰り出した渾身の突きの先に、エマの身体は無い。
替わりになんと、自分の鼻の先5ミリの所でエマの膝がピタリと停止しているでは無いか!
もし、エマの膝があと少しでも前に差し出されていたならば、間違いなく龍貴の鼻はへし折れていたに違いない。
いっ、いつの間に!
やられた......
............
............
2分間の静止を経た後、勝負は一瞬にして決着を見せた。
呆気ない幕切れだった。
やがてエマは膝を降ろし、構えを解く。
そして龍貴も崩れた態を戻し、襟元を正した。
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