第十五章 四神

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もしあの時の敗戦が無ければ、エマは先手を打ちに出て、後天的に見出だされる勝機に賭けていたかも知れない。 しかし、今エマの防衛本能はそれを許さなかった。 大門剛助...... 『攻撃こそ最大の防御なり』 それが必ずしもそうはならない事を、エマに身を持って教えた張本人に他ならない。 この龍貴と言う人物......明らかにただの尼では無い。 自らの武力により、何度も死地を乗り越えて来た者である事は明らかだった。 構え、間合い、呼吸、視線......何一つとっても一流。 ダブる......どうしてもダブる。 何なんだ? あの時と全く同じじゃないか...... 姿、形はは違えども、今目の前に立つ龍貴と、脳裏に浮かぶ大門の姿が完全に重なり合って見えるのは、目の錯覚なのか、それとも敗戦を喫して出来たトラウマが、脳に魔法を掛けているのかそれは解らない。 これはこっちから仕掛けたら必ずやられる......それだけは間違い無かった。 ならば一か八か誘い込んでみるか...... あの時、自分が誘い込まれたように! すると、微風に飛ばされた枯れ葉が、ヒラヒラとエマの顔の横に落ちて来た。 一瞬エマの視線が枯れ葉に動く。 その瞬間、龍貴の目から眩い光が発せられた。 そして...... 「てやぁー!」 瞬きする程の間に、龍貴の鋭い突きがエマのボディに飛び込んで行く。 貰った! それは龍貴の心の中で、一つの勝算が見えた瞬間だった。 しかし...... バサッ! なんだと?! なんと繰り出した渾身の突きの先に、エマの身体は無い。 替わりになんと、自分の鼻の先5ミリの所でエマの膝がピタリと停止しているでは無いか! もし、エマの膝があと少しでも前に差し出されていたならば、間違いなく龍貴の鼻はへし折れていたに違いない。 いっ、いつの間に! やられた...... ............ ............ 2分間の静止を経た後、勝負は一瞬にして決着を見せた。 呆気ない幕切れだった。 やがてエマは膝を降ろし、構えを解く。 そして龍貴も崩れた態を戻し、襟元を正した。
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