第十五章 四神

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二人は互いに顔を向け合い一礼。 そして、 「「有り難うございました」」 健闘を称え合う両者だった。 やっと緊張が解けたのか、エマの表情からは険しさが消えていた。 何はともあれ、負けなくて良かった...... 別に勝ったからと言って、何か貰える訳でも無いが、自分は卑しくも合気道の達人と歌われた父邦男(くにお)の娘だ。負けてばかりもいられなかった。 ハァ...... 一瞬の戦いを終え、百年分の疲れが出るエマだった。 「うわぁー、あのエマって子、何者?」 「あたしあの子の蹴り、速すぎて見えなかったわ!」 更なるざわめきを見せるギャラリー衆。 まさか歴戦の将である龍貴が、来たばかりの新顔にあっさり負けるなどとは、夢にも思っていなかったのだろう。 彼女らにしてみれば、飛んだ番狂わせだったに違い無い。 「さすがエマだ。よく我慢したな。私の完敗だ」 負け惜しみなど一切無し。 本音を言えば、あーだこーだと色々言いたい事はあるのだろうけど、そこは『聖経院』総支配人たる者の資質。潔さは目を見張るものがある。 妬みの表情を浮かべるどころか、寧ろ晴れ晴れとした笑顔だ。 「運が良かっただけです。まだまだ私など未熟者。龍貴さんの足元にも及びません」 エマは決して龍貴の顔を立てる為でも、尼達との摩擦を避ける為に言った訳でも無い。本音を語ったまでの事だ。
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