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「ほれっ」
龍貴は木目調のカウンターの上に置いたワイングラスに、トクトクとワインを注ぐ。
「ああ、龍貴さん溢れるって......」
日本酒と勘違いしているのだろうか? ここまで並々にワインを注ぐ人を見た事が無い。
「酒ってもんは豪快に飲むもんだ。チマチマ飲んだって面白く無いだろう」
そんな自論を披露しながら、自らのグラスにも並々に注ぐ。
「「はい、乾杯!」」
何に対して乾杯なのかはよく解らないが、エマにとっても久々のアルコール。これはこれで有り難い話だ。
「ところで龍貴さん、話って......」
エマは半分程飲み干したグラスをカウンターに置きながら、いきなり話を切り出した。
「なんだ、いきなり本題か......」
龍貴はタバコに火を点けながら、急に顔が引き締まる。
あそこに見える『禁煙』の看板は、多分オブジェなのだろう。
この人は一体何を話し始めるつもりなのか......
突拍子の無い事でなければいいのだが。不安を隠せない。
「よし、いいだろう......」
エマは再びグラスを口に運びながら、龍貴の目を見詰めた。
「エマ......お前は今この国の事をどう思う?」
龍貴の顔は真剣そのもの。凡そ飲みの席での雑談レベルの話では無さそうだ。
何かと思えば随分抽象的な話だ。どの視点から答えていいのか凡そ検討がつかない。
「この国の事ですか......私は政治家では無いので余り良くは解りませんが......
世界には貧困で苦しんでいる国が沢山有ります。そう言った国の方々の方に比べたら、我々は恵まれている方なんじゃないでしょうか。
そんな答えで宜しかったでしょうか」
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