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エマは『院長室』を追い立てられるように退出すると、一人暗がりの中、雷鳴池の橋の上で池のカメをただ何となく眺めていた。
絵に描いたような見事な満月が、雷鳴池、そして広大な日本庭園に美しい花を添えている。
このような切迫した状況でも無ければ、月を肴に一杯とでも言いたくなる場面ではあるが、とてもそんな風流に浸れる心境では無かった。
今自分は最も重要な局面に立たされている......
敵の中枢に入り込む事は、情報を入手する上で、正に願ったり叶ったりと言えよう。
しかし同時に、自分の動きも敵にはスケルトンに映ってしまう事となる。
正に諸刃の剣とはこう言う時の為に使う言葉なのだろう。
それはそうと......
もし部隊が違法行為を行うような事に至ったら......
まさか自分が先頭に立って音頭を取る訳にもいかない。
かと言って、拒否したら拒否したで、ここまで積み上げた信頼は一気に失墜する。それどころか、身の危険に晒されるやも知れない。
とにかくそう言う窮地に追い込まれる前に、とっととけりをつければいいと言う事だ。
それと、龍貴さんは『玄武』の部隊とすぐに会えるって言ってたけど......
いつ、どこで会えるんだろう。
確か全部で6人って言ってたっけ......まさか新顔の洗礼とか言って、いきなり襲って来たら笑えるな。
ハッ、ハッ、ハッ。
エマがそんな余裕な笑みを、橋の上で浮かべたその時だった。
ザッ、ザッ、ザッ。
ザッ、ザッ、ザッ。
突如周囲に響き渡る複数の足音。
ザッ、ザッ、ザッ。
ザッ、ザッ、ザッ。
それは1人や2人のものでは無かった。
4人、5人? いや6人?!
ザッ、ザッ、ザッ。
ザッ、ザッ、ザッ。
気付けば、エマを挟み撃ちするかのように、橋の両端から複数の影が迫り来ているではないか。
影の数は全部で6体。その全てから殺気が滲み出ている。次の瞬間に襲って来る事は明らかだ。
噂をすればなんとやら......ですか。
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