第十五章 四神

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エマは池の畔に立ち止まると、一番手前で寒さに震える一人の間者に手を差し伸べた。 先程エマに背を向けて、自ら池に飛び込んだ輩だ。頭から水を被り、長い髪の毛が黒光りしている。 全く...... 濡れる髪の毛があるだけマシじゃないか。 池に写る自分の頭を見詰めながらジェラシーを感じるエマだった。 「さあ。出ておいで」 エマは向日葵のような笑顔を浮かべ、優しく手を差し伸べた。 「あっ、ありがと......」 すると、お言葉に甘えて池の中のその者は、ゆっくりとエマの手を握った。 指が長い...... やっぱ龍貴さんと同じ『富士国』の末裔なのであろう。 「よっこらしょっと」 エマは両手で手を掴み、身体を持ち上げようとした時だった。 「えへっ」 その者は一瞬ニコリと笑うと、力一杯エマの身体を池の中に引っ張り込んだ。 「うわぁー!」 エマの身体は一気にバランスを崩し、そして...... バシャーン! 「つ、冷たいー!」 7匹目の亀の誕生だ。 「ハッ、ハッ、ハッ。緑(みどり)よくやったぞ! わーい溺れてる、溺れてる!」 「勝った! 勝った!」 全然勝って無いだろう?! どう言う基準で勝ち負けを決めてんだ? それにしても...... 「ちょ、ちょっとなんだこの底は?! 滑って全然立てないじゃんか!」 池の底に堆積されたヘドロが、足の裏に全くエッジを効かせてくれない。 エマは決してカナヅチと言う訳では無いが、端から見れば、溺れているようにしか見えなかった。 まずい......マジで立てない。 暴れれば暴れる程、土坪にハマっていくような気がする。
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