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ギー。
圭一はゆっくりと重い鉄扉を開ける。中は水を打ったような静けさだ。幸いにも人気は感じられない。
圭一は顔だけを出し、恐る恐る左右の様子を伺う。薄暗い通路が左右に広がっているようだ。
通路の鉄部は所々錆が見受けられ、天井に等間隔に設置された蛍光灯は、かなり旧式のもので、壊れて点灯してしないものも見受けられる。
この通路に真新しさは一切感じられない。つまりそれは、この施設が最近作られたものでは無い事を浮き彫りにしている。少なくとも10年は経過しているであろう。
そんな前から、こんな所で一体何をコソコソやっているのだ......違法行為を積み重ねている事だけは間違い無い。
左か? 右か?
どっちを見ても同じ景色。代わり映えは無い。
よし、右!
「美緒さん、こっち」
圭一は通路の右を指差した。正直その判断には何の根拠も無い。ただの勘に過ぎなかった。
圭一、美緒の順に薄暗い廊下を小走りに右へと進んで行く。
タッ、タッ、タッ......
タッ、タッ、タッ......
意外と長い通路だ。足音が異常な程に先へ先へと響き渡って行く。
「美緒さん、ストップ!」
T字路の手前で、突如圭一が急ブレーキを掛けた。
美緒の鼻が圭一の背中にぶち当たる。
「ちょっと急に止まらないでよ!」
ハナを赤くした美緒が、怒りを露にした。
「黙って。誰か来る!」
そんな美緒を圭一が制した。
コツコツコツ......
コツコツコツ......
足音が通路の奥から近付いて来るでは無いか。
二人は即座に四方を見渡した。見た所、身を隠す場所などは一切無い。今入って来た扉へ戻るにも、少し距離が有り過ぎる。
「美緒さん。俺達は守護兵に化けてるんだ。何も恐る事は無い。堂々とすれ違ってやろう」
「もしバレたら?」
「その時はその時だ」
「いいんじゃない」
「よし、行こう。自然体でな」
二人はやがて一歩を踏み出した。
薄暗い廊下に静かな三人の足音が響き渡る。
コツコツコツ......
コツコツコツ......
コツコツコツ......
コツコツコツ......
コツコツコツ......
コツコツコツ......
やがてその者の姿が正面に現れた。
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