第十六章 仮面

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美緒はすでに、髪の毛を束ねて帽子の中に押し込めている。女の守護兵など目立って仕方が無い。 とにかく潜入とは紛れ込む事。それに徹する必要があった。 二人は何気無く、帽子を深く被り直す。敢えて顔を見せる必要も無い。 コツコツコツ...... コツコツコツ...... その者はどうやら白衣を纏っているようだ。50過ぎ、いかにもインテリ化学者といったオーラを撒き散らしている。圭一が最も嫌いなタイプだ。 何気に視線を上げてみると、鋭い視線でこちらを睨み付けているではないか。 すでに不信を抱いているのか?  思わず銃を支え持つ手に力が入る。 ちょっとでも騒ぎ出す素振りを見せれば、即効で始末。そんな事態を想定した予備動作であったに違いない。 コツコツコツ...... コツコツコツ...... そんな緊迫感を他所に、両者は無言のまま、何事も無く静かにすれ違って行った。 難なくやり過ごしたか...... そんな気持ちの現れなのか、二人の顔に安堵の表情が浮かび上がった正にその時だった。 コツコツコツ...... ピタッ。 突如足音が止まる。 そして...... 「ちょっと、お前達」 突然背後から声が。 「なんだ?」 圭一は足を止め、進行方向に身体を向けたまま無表情で聞き返した。 「お前達『研究室』に何の用があるんだ?」 何となく顔を横に向けて見ると、壁には『研究室→』とのプレートが貼られている。 二人が進むその先には研究室なるものがあるようだ。何の研究をしているのかなど、この時点では知るよしも無い。 「いや、ちょっとトイレに行こうと思ってな。外は冷える。何か文句あっか?」 それ位しか咄嗟に言葉は出てこない。圭一はなぜか威嚇するような口振りで白衣男の問いに答えた。 このような時は、弱気に出るより強気に出た方が疑われない。圭一の頭の中にはそんな基本概念が有るようだ。
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