第十六章 仮面

13/27
前へ
/1040ページ
次へ
T字路を右へとスタートを切った二人は再び駆け出し始めた。 今度はかなり長い通路だ。30mはあろうか。 その間、特に部屋が有るでも無く、窓があるでも無く、実に殺風景な景色が続いた。 奥へ進めば進む程、湿気が徐々に増していき、露出した鉄部の錆がやたらと目立ち始めてくる。ひび割れたコンクリートの隙間からは、絶えず水が滴り落ち、ちょっとした鍾乳洞を形成している。 廃墟の病院の廊下でもイメージして貰えば、かなりそれに近い。 美緒は曇りきった自慢の黒渕メガネを外し、迷彩服の生地できれいに拭き取った。 「ちょっと、もう少しゆっくり走ってよ。こっちはメガネが雲っちゃって前が全然見えないんだから!」 たかが30mの距離ではあるが、美緒は床の凹凸に躓き、何度も倒れそうになっていた。 美緒は苛つきを隠せない。ジトッと滲み出る汗は、美緒の集中力を尽く奪っていった。 「美緒さん、ここは頑張りどころだ。しっかり着いてきてくれ。何がなんでも、ももちゃんを連れて帰るんだろう」 圭一は真剣な眼差しを後ろに向けながら、美緒を激励した。 「あなたの言う通りです」 今日の美緒は妙に素直だ。ももの事を考えれば、こんな所で言い争っている訳にはいかない。 絶対にももを連れて帰る!  そんな美緒の強い決心の現れなのであろう。 「OK!」 圭一はニヤリと笑う。 更に進んで行くと、薄暗い通路はやがて行き止まりに差し掛かった。その先は何やら妙に頑丈そうな扉が仁王立ちしている。
/1040ページ

最初のコメントを投稿しよう!

366人が本棚に入れています
本棚に追加