第十七章 玄武

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「村長! ダメです。行政は救援を寄越せないそうです。ど、どうしたらいいんでしょう?!」 「なっ、何?! 一体どういう事なんだ?! 行政は『富士国』の村を見殺しにするつもりなのか?!」 「他の地域の救援活動で手がいっぱいだそうです。多分ですが......本気で助ける気は無いと思います。なんせ我々『富士国』は国家転覆の疑いを掛けられてる訳ですから。こんな事で『富士国』が滅びれば、行政は大喜びでしょう。参りました......」 樹海の南西に広がる山岳地帯。 いわゆる『富士国』を名乗るこのエリアでは、観測史上最悪とも言える集中豪雨が巻き起こっていた。 川は決壊し、山は地滑りを起こし、そのエリアの中心に位置する『風龍村』では正に阿鼻叫喚の世界が広がっていた。 村の一部は、すでに川底に沈み、山間の地域では、複数の家屋が土砂の下敷きとなっていた。 何の装備も何の知恵も持たない、この村の民にとっては、残酷なる自然の脅威に対し、ほぼ無力と言っても過言では無かった。 すでに失われた命も多い中、今ならまだ救える命もそれと同じくらいあるはずだ。にも関わらず、それを行使する知恵も無ければ、力も無い。歯痒さだけが、増していくばかりだった。 そんな状況の中、更なる絶望的な報告のみが次々とこの村役場に寄せられて来る。もういい加減耳を塞ぎたくなる。 「神山エリアでも、今地滑りが発生しました。逃げ遅れた村民が、まだ多数家屋の中で土砂に埋もれています。すぐに助けを送らないと皆死んでしまいます! 早く救援を!」
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