第十七章 玄武

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泡を喰って駆け込んで来た村役人は、必死の形相で訴え掛ける。 その切迫した表情を見れば、その場に居なくとも現場で描かれた地獄絵図がまるで目に浮かんでくるようだ。 もはや誰の目に見ても、猶予が無い事は明らか。このまま同志を見捨てる以外に手は無いのだろうか...... 「そんな事は解ってるわ! 隣村の救援隊はまだ来ないのか?! 一体いつになったらやって来るんだ!」 被害を受けていない隣村から、僅かに残る若者達が救助に出発したと言う情報が入っていた。しかしそれからすでに1時間以上が経過している。 通常であれば、車で約20分の距離。この豪雨の中とは言え、精々掛かっても30分と言うところだろう。 「土砂崩れで道路が寸断されてしまったようです。車両が一切入って来れない状況の為、やむ無く引き返したとの報告が今入りました!」 「なっ、なんだと......ひ、ひ、引き返しただと!」 バリンッ! 年老いた村長は白髪頭を振り乱しながら、机の上の一輪挿しを力一杯床に叩きつけた。 ガラスの破片が四方に飛び散り、村役場内に激しい音が響き渡った。 「......」 「......」 もはや誰も口を開く者は居ない。 すでに万策尽きた......全員がそんな心境であったに違い無い。
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