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「大丈夫! 大した怪我じゃ無いよ。気持ちをしっかり持ってね。...... おい『赤』、このお婆ちゃん連れてってくれ!」
「了解どぇっす」
『赤』は木の下に設けられた『簡易野戦病院』へと、傷付いた老婆をいそいそと運んで行く。
この村へと唯一通じる一本道は、土砂崩れにより完全に寸断されていた。
彼女らはその地点から車を降り、大きな荷物を何個も担ぎ、山を越え、谷を越え、漸く村に辿り着いたかと思えば、休む間も無く永遠と救出活動を続けている。
心身共に疲れ切っている事は間違いない。しかし彼女らは、誰一人そんな疲れを見せる事無く、村民を励まし、そして救える命を一つ、そしてまた一つと次々に救っていった。
きっと村民の目には、彼女らが女神のように映ったに違い無い。
彼女らが死ぬ思いで運んで来た資材も、決してこの壮絶なる修羅場を満足させられるような質と量では無かった。
『簡易野戦病院』......それは名ばかりのもの。
実際は、雨が余り当たらない大木の下に、ブルーシートを敷いただけの花見程度の装備。少なくとも病院などと威張れる程の代物では無かった。
予め、怪我人が出る事を想定し、包帯、消毒剤、担架等、一通りの応急部材は用意していた訳だが、実際はとてもそれで賄いきれるような楽観的状況では無かった。
「痛い......痛い」
「死ぬのは嫌だ」
「右目が見えない! 私どうしちゃったの?!」
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