366人が本棚に入れています
本棚に追加
『野戦病院』で一人右往左往しているのは『赤』だった。
「今、そっち行くから少し待っててね。はい、右手折れてるから今添え木当てるよ。痛いけど、ちょっと我慢して......はい終わった。
坊や、君は男の子でしょう。泣かない! はい次そっち行くよ!」
『赤』はアマゾネスの一員となる前、医学的な仕事をしていたのかも知れない。
動きに無駄が無く、見るからに手付きが慣れている。次々と運ばれて来る怪我人達に対し、迅速に応急処置を施していった。
言葉や表情における心のケアも決して忘れてはいない。殺伐たる状況であるにも関わらず、笑顔だけは決して絶やさなかった。
情け無用の仕事人も、今日ばかりは白衣の天使のように輝いて見える。
戦う事ばかりに着目しがちではあるが、こういった『赤』の持つようなスキルも、戦いには重要である事を思い知らされる一幕だった。
「ダッ、ダメだ!」
突如、エマの背後で慟哭の叫び声が立ち上がる。
「どうした?!」
慌てて振り替えるエマ。すると瓦礫の下に手を伸ばし、苦痛の表情を浮かべている『黄』の姿が真っ先に目に入った。
見れば額から血を流しているではないか。斜面を転げ落ちた石の類いにやられたのかも知れない。
「この下に子供が! 倒れた柱に足が挟まって抜けない。まだ息が有ります!」
『黄』は藁をもすがる思いで訴えた。必死の形相だ。頭から血が流れている事など、自分では気付いていないのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!