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『黄』は疲れきった身体に鞭を打ち、エマに申し付けられた『棒』を探しに四方を走り回る。もはや彼女を走らせる原動力は、母性以外には無かった。
頑張れ『黄』......
心の中でエールを送る。
エマは今一度、少女の身体を束縛している障害物を細かく解析した。
家屋の崩壊により倒れた落ちた直径30センチ程の太い柱。これが少女の横たわる身体の上に、平行するような形でのし掛かっている。
更にその柱の上下には、屋根などの崩壊した角材がふんだんに覆い被さり、柱を微動だにさせない要因と化していた。
再度その柱を排除すべく、全身の力を集中させて持ち上げてはみるが、少女が振動で苦しむだけで無駄に体力を消耗させるだけだった。
少女は柱の下のぽっこりと空いた穴にすっぽりとはまっている。それはそれで幸運だったと神に感謝しなければならない。
もし倒れた位置が少しでもこの穴から逸れていたならば、今頃少女の身体は柱に押し潰され、ぺしゃんこになっていた事だろう。
しかしそこが穴であるが故に、滝のように流れてくる雨水は、万有引力の法則に乗っとり、必然的にそこへと集まって来る。
エマは筋力だけで柱を持ち上げる事を諦め、少女の首を腕でしっかりと支えた。
水嵩は時間と共に増していき、いずれは少女の顔も水没してしまうに違い無い。
そうなる前に何としてでも、ここから少女を引っ張り出さなければならなかった。
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