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「う、う、う......お、お母さん......」
あまりの苦しさに思わず少女は呻き声を漏らす。耐え難い苦痛であるに違い無い。
もういい加減、体力も気力も限界に来ているのだろう。思わず目を背けたくなるような光景だ。
「もうちょっとだから......もう少しだけ辛抱して。今お母さん戻って来るからね」
エマがいよいよ少女の限界を見極めた時だった。山の斜面を駆け上がって来る足音が。
バタバタバタッ!
おお、戻って来たか!
『頭! こ、こんなんでいけますか?!』
後ろを振り返れば『黄』が注文通りの『棒』を担ぎ、肩で息をしている。
ハァ、ハァ、ハァ......
『黄』はすでに身体の半分が水没している愛娘の姿を目の当たりにし、瞬時に慟哭の表情を浮かべた。
そして思わず......
『恵麻(えま)ちゃん!』
我が子の名前を嗚咽するかのように叫んだ。
それは『富士国』の英雄『アマゾネス』から、一児のママに戻った瞬間だった。
「その子、恵麻ちゃんって言うのか。そいつは最強の名前だ! よっぽどの事が無い限り死なないよ。安心しろ。ハッ、ハッ、ハッ」
切羽詰まった緊張感を吹き飛ばすような、エマの笑い声が山間に響き渡った正にその時だった。
ゴー!
ガタガタガタ!
バタバタバタッ!
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