第十八章 獅虎豹鷹 朱雀 

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深い霧が立ち込める樹海北部の夕暮れ...... 間もなく太陽は樹木の影にその姿を隠し、暗黒の夜を向かえようとしていた。 『樹海温泉 深緑荘』 そんな看板が掲げられた一軒宿の玄関先には、この後訪れる夜に備え、今正に篝火が灯されたところだ。 築100年と言うことらしい。 明治・大正を思わせるその重厚な造りは、古さを感じさせず、所謂『ハイカラ』な印象を受ける。神戸の異人館にこの建物が軒を連ねていたとしても、決して違和感を感じさせない。  樹海の深い森に佇む築100年の一軒宿...... 場所が場所だけに、それだけ聞くとオカルトな印象を受けるかも知れないが、決してそんな事は無い。 庭は綺麗に手入れされ、常に清掃が行き届いたその空間は、薄汚れた印象は全く無く、オカルトのオの字も感じさせない。よくある『廃墟』とは全く無縁の建物だった。 ハイシーズンこそは『樹海自然探索ツアー』の参加者などにより、それなりの賑わいを見せるこの旅館も、小雪舞うこの季節ともなると、少し寂しい印象を受ける。 それでも源泉掛け流しの露天風呂は、マニアの中でも定評があり、老夫婦二人が食べて行くだけの収入は年間を通じて確保されていると言えよう。 「いやはや......店では酷い目に合いました」 「デモ、こうしてミンナ生きてるダケ幸せデスネ」 2階の和室の窓枠に腰掛けながら、浴衣で回想に更ける2人。それは他でも無い。『アマゾネス』に襲撃され、拠点を失ったポールとマスターだった。 イメージでは浴衣が似合わなそうな二人ではあるが、着てみると意外とそうでも無い。中々様になっている。『ちょいワルオヤジとイケメンハーフ』夏のメンズ雑誌の表紙になりそうな装いだ。 「でもよくこんな隠れ家見付けたわね」 浴衣が妙に色っぽい中年女性が会話に加わった。シャンソンの女王『青島麗子』だ。
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