第十八章 獅虎豹鷹 朱雀 

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ポールとマスターの二人は呆れ顔。この二人に処方する薬は無い。そんな表情だ。 未来と健介はまるで名探偵の如く、舐めるような視線で敷居板を吟味していった。 ここまで真剣な二人の顔を見た事が無い。これまでの半生、このような真剣な顔で生きて来ていれば、今のような不遇に陥る事もきっと無かっただろう。実に勿体無い話だ。 やがて二人の異常なまでの集中力は、更に神の域へと達していく。 これだけ傷んだ敷居板だ。絶対どこかに覗ける穴があるはず! 見付けるまでは、死んでもここから離れん!  そんな燃えるようなオーラに包まれた二人を、流し目で見続ける二匹の日本猿。さっきから鼻をほじっている。 そしてとうとう彼らの夢が叶う瞬間が訪れた。 「おいっ、あった! こっち、こっち!」 突如、健介がゼスチャーで未来を呼び込んだ。 「やったー、でかしたぞ!」 未来は湯の中を、なぜかバタフライで健介の元へと駆け参じる。 「ここ、ここ!」 見れば、健介は腰高位の位置にぽっかり開いた10円玉程度の穴を指差していた。 実に芸術的と言っても過言では無い。『覗く』と言う事に関しては、正にエクセレントな穴がそこに存在していた。 これ以上大きくてもバレてしまうし、これ以上小さくてもよく見えない。もしかしたら過去に誰かが、それを目的に開けた穴なのかも知れない。 『ブラボー!』この穴を見付けて、心の中でそう叫んだ男性諸君は、きっと過去に大勢居た事だろう。旅館の管理責任を問われても致し方無い。
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