第十九章 コピー

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『既存状態の維持』 これが常に大きな壁となり、彼らの前に立ちはだかり続けていたと言うのが現状だ。 では一体5人の少年に『放射』されたものは何なのか? それは美緒と圭一がトラックの運転手に扮して、この『マンタ洞窟』に潜入した時の積み荷に他ならない。 『ゴム』だ。 単純にゴムと言っても、皆が想像するような所謂『ゴム』とはかなり違う。 人の皮膚と何ら変わらない、正に『皮膚』その物の触感。 微粒子レベルのそれに、多くの気泡を取り込む事により、皮膚呼吸を可能にした材質。 無臭であり、一度固まれば特殊な薬剤を吹き付けない限り、絶対に化学変化を起こさない特性。 そのような条件を満たした『ゴム』を開発する為に、これまでモルモットにされた『弱者』の犠牲は数限りない。 皮膚呼吸出来ずに、放射後苦しみ抜いて死んでいった者。 放射中に呼吸を止め切れず、肺がゴムを大量吸入して死亡した者。 ゴム除去の為の溶解液を吹き付けたところ、全身が溶け落ちて骨となった者。 犠牲者の数は10や20の話では無い。長い研究の歴史の間に、数限りない『弱者』の命が失われ続けてきた事は事実だ。 そんな犠牲者の亡骸は、まとめて焼却炉で焼かれ、今も弔われる事無く『マンタ洞窟』の地底で泣き続けている事だろう。実に惨い話だ。
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