第二十章 隠者の村

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「母さん......様子はどうだ?」 「そうさのう......死んだように眠っとる。健やかな寝顔じゃ」 大きな和室に敷かれた布団に眠る年若き女性を、左右から静かに覗き込む親子。 その女性はまるで毒リンゴを食べた白雪姫のごとく、死んだように眠っていた。 僅かに開いた障子の隙間からは、強い日差しのカーテンが差し込んで来ている。昨日の嵐がまるで嘘のようだ。 手が悴むような季節であるにも関わらず、縁側では近所の子供達が元気に駆けずり回っている。平和を絵に描いたような長閑な農村の風景が、障子を隔てたその先には永遠と広がっていた。 「一時はどうなるかと思ったけど......八雲(やくも)先生が居てくれて本当に良かった......」 白雪姫の顔を見詰めながら、そう呟いたのは年齢20代中盤。清潔間漂う好青年だった。 「そうさのう......八雲先生が居てくれなかったら、このお嬢さんの命もどうなっていた事やら......」 青年の顔を見詰めながらそう答えたのは、もんぺ姿、白髪頭の老女。老女と言ったら少し可哀想な気もするが、年齢60は超えているだろう。青年に『母さん』と呼ばれただけあって、二人とも顔がよく似ている。 耳を澄ませば、遠くから川のせせらぎが。昨日は荒れ狂う濁流と化していたその川も、一日経てばまたいつもの落ち着きを取り戻していた。
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