第二十章 隠者の村

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すると、 スー。 背後で障子の開く音が。 だっ、誰?! エマは痛みに顔を引きつらせたまま、咄嗟に振り返る。 すると障子の前で、もんぺ姿の老女が驚きの表情を浮かべて立ち尽くしているでは無いか。 「おや! 目を覚ましたのかい。まだ動いちゃいかん。寝とらんと」 そう言いながら、老女は慌てて女性の身体を両手で支え込む。 「こ、ここはどこなんでしょうか? そ、それと......私は......誰......なんでしょう?」 見れば女性は必死の形相。かなり取り乱しているようだ。 「まぁ、落ち着きなされ! そんなに興奮せんと。ほら座って」 老女は興奮しきる女性を宥めながら、ゆっくりと布団の上に座らせた。そして自らは畳に腰を下ろし胡座をかく。 「ほら、深呼吸して」 ハァ、ハァ、ハァ...... ハァ、ハァ、ハァ...... エマは老女に言われるがまま大きく深呼吸する。そして気を静め、ゆっくりと口を開いた。 「すみません。取り乱しまして......」 「ええんじゃよ。少しは落ちついたかのう.......」 「はい。もう大丈夫です」 「良かろう......それで......知りたい事があるんじゃろ?」 老女は微風に揺れる白髪頭を掻きながら、ゆっくりと問い掛けた。 「はい、いきなりで驚かれるかも知れませんが、実は私.......これまでの記憶が全く無いんです。 ここがどこなのか? 自分が誰なのか? そしてこれまでの半世、自分がどう生きて来たのか?  解る事が何一つ無いんです。ですので逆に何を聞いていいのかすら解らない」
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